読者です 読者をやめる 読者になる 読者になる

「色彩を持たない多崎つくると、彼の巡礼の年」は推理小説である。(感想・考察・謎解き)  (ネタバレあり)

「色彩を持たない多崎つくると、彼の巡礼の年」(村上春樹)の謎解き。事件の真相・犯人を推理し、特定します。

余談 その9 沙羅の「2人の友達」とは誰?

 

(目次に戻る)(初めてこのブログに来られた方はまず目次をご覧ください。) 

 

*激しくネタバレしています。ご注意願います。

 

(前のページに戻る)

 

 先日、下記エントリーのコメント欄で、沙羅の「2人の友達」とは誰かについてのご意見がありました。

21.沙羅は何者?、22.沙羅と一緒に歩いていた男性は誰?及びコメント欄

(ただし、上記のエントリーを初めてご覧になられる方は、わかりにくいかと思われますので、できれば15.シロを殺した犯人は誰か?あたりから順番にご覧いただけると嬉しいです。)

 それで、沙羅の「2人の友達」が誰か、私なりに推論を考えてみました。以下に述べます。

 

1.沙羅の「2人の友達」の条件

 小説の描写から、沙羅の「2人の友達」は以下の条件が当てはまる人かと思われます。 

① 友達は「女性」である(この話は、もともと女の子同士でしか話せないことはあるから、クロはシロの事情をもっと詳しく知っている筈という話から始まった話です)。

     友達は多分「同じ高校で同じ時期に学んだ仲間」である(つくるのグループと対比して沙羅は話しています)。

     高校時代からの友達である。

     2人とも結婚していて、子供もいる。

     それほどしょっちゅうは会えない。

以上の条件から考えて3つの説が考えられます。

第1の説は、「この小説には『2人の友達』は登場しない」です。

この説の根拠は、上記5つの条件が全て当てはまる人がこの小説には登場しないからです(「色が薄くなっていく彼女」は親友にはとても見えませんので除外です)。

 しかし、これでは面白くないので、第2の説「この小説には『2人の友達』は2人とも登場する」について検討してみましょう。この説の根拠は、「作者がわざわざ書いているんだから、何か意味があるのだろう」です。

①~⑤の条件を厳密に考えなければ(特に②はあまり関係ないと考えれば)、条件に最も当てはまるのは、まずクロです。②を除き全て条件に当てはまります。もう1人ですが、消去法で考えるとオルガしかいないのですね。コメント欄で「たく」さんの挙げた「青山で沙羅と一緒にいた男性」はおそらく違うかと思います。①の「女性」である、というのは絶対条件かと思いますし、③の「高校時代からの友達」にも当てはまらないかなと思われます。

オルガ説ですが、補強する証拠としては、「私にも一人、高校時代からの友達がいます。今でもよく会って話します」という意味深なことをオルガは言っています。また「(彼女とは)しばらく会っていませんが」と言っているので⑤の条件にも当てはまります。④については何も描写がないので不明です。

しかし、彼女の年齢は「たぶん二十代後半」となっているので、見かけの年齢が合っていれば②でないことはもちろん、③「高校時代からの友達」というのもかなり微妙です。彼女の見かけは二十代後半だが、実は三十代後半で、高校時代日本(名古屋)に住んでいて沙羅と友達でないと、③の条件は当てはまらないのですね。

ということで、オルガが「2人の友達」の1人であるかは、ちょっと微妙だと思います。

  このため第3の説、「この小説には『2人の友達』のうち1人は登場する(これはクロを指す)が、もう1人は登場しない」なのかな、と思います。なんか、すっきりしませんが。

 

2.沙羅とクロ(黒埜恵理)の仲は?

 しかし、上記第1から第3の説のどれであっても、沙羅とクロ(黒埜恵理)が現在も親密な仲であることは小説の描写から明らかです。以下確認してみましょう。

 

① もともとクロとシロの姉である沙羅は、シロの秘密を共有する親密な仲です。(もちろん、「沙羅=シロの姉」仮説が正しければの話ですが)

② 沙羅がグループのメンバーの連絡先を調べたときにそれほど簡単ではなかったと書かれているにも関わらず、わずか5日で(おそらく公表されていない)クロのフィンランドの自宅の住所及び電話番号を入手しています(アオやアカの連絡先がおそらく公開されているオフィスの住所であることに注意)。初めから沙羅はクロの住所と電話番号を知っていたとしか思えません。

③ アオとアカとの巡礼が終わった後、会った事も無いはずなのに、クロならば事情を知っている気がするなど、確信ありげに沙羅はつくるに話しています。クロが事情を知っていることを沙羅は初めから知っていたのです。

④ クロは多崎つくると再会したときに非常にびっくりしています。しかし、なぜか夫のエドヴァルトは見知らぬ日本人が突然訪ねて来たにも関わらず、全然驚きもせず、まるで訪問を予期していたかのように、落ち着いて対応しています。これは、沙羅が事前にエドヴァルトに以下のような連絡をしたからだと思われます。(クロの親友である沙羅は、もちろん夫のエドヴァルトとも知り合いです。)

「多崎つくるという日本人が、近々エリを訪ねて来ると思うが、彼は高校時代のエリの親友なので歓迎してやってほしい。ただ、彼はエリにはサプライズで会って驚かしたいらしいので、彼女にはこの件は知らせないでくれると嬉しい。もちろん、この連絡もエリには知らせないように。」彼はこの依頼を承知しました。

⑤ クロは、多崎つくるの職業を「しばらく前に風の便りに聞いたよ。」と言っています。誰に聞いたのでしょう?アオ?アカ?彼らがわざわざ、つくるが現在何の職業に就いているかを調べるとは思えません。彼らがつくると再会したときも、彼の職業を初めて知ったような感じでした。では、クロは誰から聞いたのでしょうか?もちろん、沙羅から聞いたのです。(つくるの巡礼の後にアオかアカがクロに知らせた可能性もありますが、アオかアカに聞いたのならそのように話すだけで、風の便りなどと曖昧な言葉で濁したりしないでしょう。)

⑥ クロは、1度も会ったことのないはずの沙羅のことを随分推します。初読のとき、クロの沙羅推しに随分違和感がありました。親友であれば、彼女のことを推すのも不思議ではありません。

 

3.クロはどこまで真相を知っているのか? 

 クロが、沙羅と現在も親密であるという仮説が正しいとすると、「では、クロ(エリ)はどこまで真相を知っているのか」という話になります。

 まず、クロは沙羅の正体がシロの姉であることは当然知っています。彼女が、多崎つくると再会して彼と付き合っていることも知っています。しかし、これは沙羅から知らされたことです。クロは沙羅から以下のように知らされているのだと思います。

 「先日、偶然に多崎つくると再会した(これは、もちろん沙羅の嘘です。再会は彼女が伝手を使って仕掛けたことです)。そして、色々あって彼と付き合うことになった。しかし、彼は自分がシロの姉だということに気が付いていない。彼がびっくりするといけないので、しばらく秘密にしようと思う。折を見て彼には打ち明けるつもりだ。」

 彼女がしばらく秘密にすると言っている以上、クロから沙羅の正体をつくるに暴露する訳にはいきません。

 しかし、彼女がつくるに秘密にしていることは、これだけだと思います。事件の真相はおそらく彼女は知らないです。

 

 彼女が真相を知らないであろう根拠は以下のとおりです。

1に、彼女がつくると再会したときの衝撃を受けた態度は、演技とはとても思えません。彼女はまさか多崎つくるが訪問してくるとは思わず本当に驚いたのでした。つまり、沙羅の「巡礼計画」はクロには知らされていないのです。

ただ、実際には沙羅はクロを驚かせないために、本当は多崎つくるの訪問自体は事前にクロに知らせたかったのだと思います。だから、沙羅はつくるに、事前に何のアポイントもなく本当にフィンランドへ行くのか聞いています。ところが、つくるのアホがサプライズでクロを訪問したいとどうしても言い張ります。事前にクロに知らせるとクロの態度が不自然(少しも驚かず、つくるの来訪を予期していたかのような態度)になってしまい、つくるが、この巡礼が沙羅によって仕組まれたものだと気が付いてしまう可能性があるため、沙羅はクロに知らせず、夫のエドヴァルトにのみ知らせたのです。

いずれにしても、沙羅の「巡礼計画」にはクロは関わっていません。

第2に余談 その6 この小説の構造は?①~3つの関門の第3の関門でも書きましたが、彼女のキャラクターは、「真相など知りたくない、(多義的な解釈へ)逃げたい」というキャラクターです。これが、彼女が「最後の誘惑(多義的な解釈)への罠」となる流れになります。もちろん、彼女の心の中の描写までは書かれていないので分かりませんが、彼女が「真相を知りつつ、それを隠す」キャラクターだと感じさせる描写は1つもありませんので、沙羅がシロの姉である事実を知っていることを除き、彼女が知っていることは小説内で語られたことが全てであるかと思われます。

 

(平成26年5月2日追記)

 沙羅は「さよならカローラ、こんにちはレクサス」、クロは「さようなら小説、こんにちは陶芸」と似たようなフレーズを使って話しています。友達同士でよく使っているフレーズなのでしょう。この描写も沙羅とクロが友達であることを裏付けていますね。

 

(お読みいただきありがとうございます。もし、よろしければ感想などありましたら、コメント欄にコメントしていただけると嬉しいです。)