「色彩を持たない多崎つくると、彼の巡礼の年」は推理小説である。(感想・考察・謎解き)  (ネタバレあり)

「色彩を持たない多崎つくると、彼の巡礼の年」(村上春樹)の謎解き。事件の真相・犯人を推理し、特定します。

余談 その17 なぜ、エリは「私のことをもうクロって呼ばないで。」と言ったのか?

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*激しくネタバレしています。ご注意願います。

 

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 エリ(クロ)は多崎つくるが、本当は柚木(シロ)に惹かれていたにも関わらず、グループの調和を保つために、シロとクロを異性として意識しないように「二人を一組として考えるようにしていた」のを知っていました。つくるだけではありません。グループの調和を守るために、クロはつくるが好きなことを、アオはクロが好きなことを黙っていました。アカはホモセクシュアルでしたが、その頃はそのような感情を意識にものぼらせないようにしていたように思われます。

 

 やはり、それは沙羅の指摘するように不自然なことだったのです。つくるが柚木を強く求めなかったことによって、つくるは柚木の問題に気が付くことができず、柚木を守ってやることができなかったのです。グループを守るために自分の恋愛感情に素直になれなかったことが、結局はグループの崩壊に繋がりました。

 

もちろん、グループのメンバーが自分の恋愛感情に素直になっていれば結局グループは解体していたかもしれませんが、それは自然に基づくものであり、小説世界で現実に起こったような暴力的な崩壊は迎えていなかったのだと思われます。

 

エリはそのこと(多崎つくるが、シロとクロを「二人を一組として考えるようにしていた」ことによって、柚木(シロ)を守ることができなかったということ)に直感的に気が付いたのだと思います。もっとも、この直感がどういった真相に繋がっているのかまでは、エリも気が付いていないのですが。

 

このため、エリは、シロ・クロという、つくるが「二人を一組として考えるようにするための」記号を拒否し、エリ、柚木(ユズ)という個人の名前を呼んで欲しいと言ったのです。

 

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