「色彩を持たない多崎つくると、彼の巡礼の年」は推理小説である。(感想・考察・謎解き)  (ネタバレあり)

「色彩を持たない多崎つくると、彼の巡礼の年」(村上春樹)の謎解き。事件の真相・犯人を推理し、特定します。

余談 その16 嫉妬の夢の意味は?

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*激しくネタバレしています。ご注意願います。

 

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一般的には嫉妬の感情は悪いものとされますが、この小説における「嫉妬」の感情は必ずしも悪い感情とは限りません。嫉妬の感情こそは、死の間際にいた多崎つくるを「生」の側に戻した、焼けつくような「生の感情」です。誰かを強く嫉妬するほど求めることによって、多崎つくるは「生の感情」を取り戻すことができたのです。

しかし、これでは中途半端です。彼はその嫉妬の感情を向ける先を明確に定めることができませんでした。嫉妬の感情を向ける先を明確にすることができて初めて、真相を求めようとする意思が生まれ、真実に至ることができたのです。

「強い西風」とは、シロ(白虎、西)の比喩「4.名前の意味は?」参照)です。しかし、まだ多崎つくるはそのことに気が付きません。

 

青山で、沙羅と男の人が一緒に歩いているのを見たときに、彼が抱いたのは嫉妬の感情ではなく、ただの哀しみでした。これもまた、中途半端なのです。彼はもっと本当に沙羅を求め、激しく嫉妬すべきでした。この感情が真相を求める意思を生み、真実に至る道なのです。

しかし、つくるは最後にクロの忠告を無視し、沙羅に「男の人」について尋ねます。このことによってかろうじて、真相を求めようとする意思がつくるにあるとみなされ、沙羅によって真相への扉が開かれることになります。 

           ◇   ◇   ◇ 

この小説の最後の「白樺の木立を抜ける風の音だけが残った。」の風とは何だろうかと考えていました。私はシロ(柚木)からの風の歌なのかと考えました。 

関係ありませんが、(小説の)「風の歌を聴け」の「風の歌」って「直子の歌」って意味なのかな、とふと今思いました。

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