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「色彩を持たない多崎つくると、彼の巡礼の年」は推理小説である。(感想・考察・謎解き)  (ネタバレあり)

「色彩を持たない多崎つくると、彼の巡礼の年」(村上春樹)の謎解き。事件の真相・犯人を推理し、特定します。

「色彩を持たない多崎つくると、彼の巡礼の年」は推理小説である。⑨

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*激しくネタバレしています。ご注意願います。

 

このページを読む前に必ず(前のページ)をご覧ください。

17.なぜ、シロはつくるにレイプされたと言ったのか?①

 18.なぜ、シロはつくるにレイプされたと言ったのか?②

 追補.以下は想像です。(平成2554日掲載)

 

 

17.なぜ、シロはつくるにレイプされたと言ったのか?①

シロが父親から性的な虐待を受けていたのは多分かなり昔からだと思われます。クロは「ただユズは昔から一貫して性的なものごとに対する嫌悪感をとても強く持っていた。」「どこからそういうものが生まれたのか、それは私にもわからない」と言っています。ただ、本人の嘘の告発の一部を信じるなら、性交を伴う虐待は、大学2年のときがはじめてだったということになりますが、これは他の性的な虐待をしていなかったという話にはなりません。しかし、この5人のグループが生まれてから、父親による虐待が一時的に止まったのでしょう。5人は家族ぐるみの付き合いがありましたから、異性の友人がいることを父親もわかっていたと思います。もし、虐待を続けた場合、(恋人になる可能性のある)異性の友人に相談することもあり得ると思ったのでしょう。シロの性格から言ってそんなことを相談するとは思えませんが、父親としては用心する必要があったのです。

 

18.なぜ、シロはつくるにレイプされたと言ったのか?②

  多崎つくるは、「僕らの間には、口には出さないけど、いくつかの無言の取り決めがあった。『可能な限り五人で一緒に行動しよう』というのもそのひとつだった。」と言っていますが、そんなことよりもっと大切な無言の取り決めがあったはずです。それは「決して名古屋から出てはいけない。」だったと思われます。しかし、多崎つくるは、おそらくこのグループの最大の禁忌をあっさり破ります。だが別にこのグループは宗教団体ではないのです。つくるが東京へ行きたいというのなら寂しいが応援してやるのが仲間というものだろう。と、仲間達は暖かく応援しつつ、この禁忌を破ったことで何か良からぬことが起きるのではないかと一抹の不安を感じてはいたのでしょう。もちろん、つくるが東京へ行くことでグループの結びつきがだんだんと薄まっていき、数ヶ月に1回会っていていたのが、だんだんと1年に1回になり、数年に1回になり、やがて年賀状の挨拶しかしなくなるようなフェードアウトの予感もあったでしょう。しかし、他の多くの高校時代の仲間も同じ道を辿るのです。寂しいことではあるが仕方ないことです。事件が起こり、この禁忌を破ったことの罰がそんな生易しいものではないと分かるまでは。

 シロは昔から深刻な問題を抱えていました。それが、このグループのおかげで一時的に文字通り守られていたのです。しかし、つくるが東京に行ったことよって、グループは結節点を失い(4.名前の意味は?参照)崩壊へ向かっていたのです。そして、1年後グループの崩壊を見極めた父親によって性的虐待が再開されます。

 

追補.以下は想像です。(平成2554日掲載)

 

 以下は想像です(以下「蛍・納屋を焼く・その他の短編」への核心的なネタバレを含む言及があるため、反転します)。(ここからネタバレ反転)

 16年前の5月、グループが最後に全員集まった時に、真犯人である父親はグループのメンバーと顔を合わせていたと思われます(小説内には書かれていませんので、想像ですが)。その時に、メンバーの品定めをしていたのではないでしょうか?「納屋を焼く」の彼氏のように。

 「納屋を焼く」という村上春樹の短編小説があります。ここでの「納屋を焼く」は、実際に納屋を焼くことではなく(小説の主人公はそのように誤解しますが)「身寄りのいない、誰も守ってくれない女の子をターゲットにして殺す(殺して焼く?)」ということの隠された比喩です。なぜ、彼氏がそんなことをするかというと、彼は「根源的な悪」だからなのでしょう。

 彼氏は、女の子と連れ立って主人公の家を訪れます。何をしに来たのかというと、主人公が「女の子を守る存在なのか」見極めにきたのです。結果は、不合格。主人公は、彼氏の話の隠されたメッセージに、話をされたその時も、女の子が行方不明になった後も気が付くことはありません。「気が付くことができない、気が付こうともしない」人間は、彼女を守ってやることはできません。彼氏は、安心してターゲットである女の子を殺します。

 

 上記の彼氏と同じように父親は、16年前にグループが最後に集まったときに、(シロの家で)グループのメンバーにさりげなく顔を合わせてみて、彼らがシロを守ることができる存在かさぐりを入れてみたと思います。既にグループは、多崎つくるが名古屋を離れたことによって結節点を失い、バラバラになりシロを守ってやる力はありません。では、彼ら11人はシロを守ることができる存在なのか。見極めるため父親はメンバーの品定めをします。結果は全員不合格。致命的に鈍感な多崎つくるは当然、他のメンバーもシロの抱えていた問題に気が付くことはありませんでした。事件が起こった後も気が付くことはありませんでした。彼女が殺された後も気が付くことはありませんでした。気が付くことができない、気が付こうともしない人間は、誰も守ってやることはできないのです。 (ここまで)

 

(お読みいただきありがとうございます。もし、よろしければ感想などありましたら、コメント欄にコメントしていただけると嬉しいです。)