「色彩を持たない多崎つくると、彼の巡礼の年」は推理小説である。(感想・考察・謎解き)  (ネタバレあり)

「色彩を持たない多崎つくると、彼の巡礼の年」(村上春樹)の謎解き。事件の真相・犯人を推理し、特定します。

余談 その21 ピアノ・ソナタの夢の意味は?

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*激しくネタバレしています。ご注意願います。

 

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 多崎つくるがこの小説の終わり近くに見るピアノ・ソナタの夢の意味はなんでしょうか? 

これは、この小説そのものの比喩です。村上春樹はこの小説の構造に絶対の自信を持ち、この夢の描写で自画自賛までしています。しかし、ほとんどの読者はこの小説の価値をまったく理解せず、退屈なものだと不満に思うだろうと作者は考えています。この小説を発表する前から、作者はこの小説は理解されず不評が多いだろうな、と覚悟していたのだと思われます。(むしろ、こんなにたくさん売れてびっくりしているでしょう。)

これは、この小説が「推理小説」であるのに小説内では種明かしをしないこと(リドルストーリーであること)、そして、そもそもこの小説が「推理小説」であることは公表しないという、ちょっと見方によっては「ずるい」発表の仕方をしているので、まあしょうがないでしょう。読者の不満や批判を想定したうえで、あえて作者は真相を伏せています。

 

(この小説が「推理小説」であることは、「自分がそのもつれあった莫大な量の暗号の海を、誰よりも素早く正確に解読し、そこに正しいかたちを同時的に与えていけるということが。」という描写で暗示されています。)

 

白鍵はシロの比喩、黒鍵はクロの比喩、楽譜をめくる黒衣の女性は誰なのでしょうか?最初、シロ(真っ白な指)、クロ(漆黒の髪、黒いドレス)、灰田(6本の指)の融合した存在なのかな、と思ったのですが、これでは意味がよくわかりません。

 

「彼は自分の傍に立つ女の顔を見上げたかった。それはどんな女なのだろう?彼が知っている女なのだろうか?」

たぶん、この女性は沙羅だと思います。楽譜のページをめくる=真実への導き手という意味かと思われます。指が6本というのは、6本指=灰田か緑川の暗示というミスリードになっていますが、これはこの夢では別のことを指しているのかと思います。今まで、私はこの小説の6番目の登場人物は灰田であると誤解していましたが、実は6番目に登場するのは沙羅です。(時系列ではなく、小説のページの順番です。)6番目に登場する沙羅が真実への導き手であるという暗示です。

 

以上で余談を終わります。次回からは書評になります。

 

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