「色彩を持たない多崎つくると、彼の巡礼の年」は推理小説である。(感想・考察・謎解き)  (ネタバレあり)

「色彩を持たない多崎つくると、彼の巡礼の年」(村上春樹)の謎解き。事件の真相・犯人を推理し、特定します。

余談 その15 なぜ、多崎つくる達の故郷は名古屋なのか?

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 *激しくネタバレしています。ご注意願います。

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 普通、作家が小説の舞台に「故郷」を設定する場合、自分の本当の故郷をモデルにすることが多いようです。村上春樹の故郷は芦屋(生まれたのは京都だそうですが)ですので、選択枝に芦屋もありえたでしょう。

しかし、この小説で故郷を芦屋にするのは無理です。余談その4 「色彩を持たない多崎つくると、彼の巡礼の年」はいつの年の話?でも示したように、多崎つくるが「追放」されたのは、1995年、阪神・淡路大震災の起こった年です。芦屋も大震災の影響を受けますので、芦屋を故郷としてしまうと大震災のことを書かないといけません。「大震災のことは今回の小説では明示的には書かない」というのがこの小説の方針だと思われますので、この小説では芦屋は故郷から除外されます。阪神・淡路大震災の影響を受けた他の地域も除外されます。

「現在」は2012年ですので、東日本大震災の影響を受けた地域も除外されます。

 

また、方向も大事です。多崎つくるにとって「失われた故郷」は「シロ」を指します。(余談 その14 『ル・マル・デュ・ペイ』とは何か?(リンク先http://sonhakuhu23.hatenablog.com/entry/2013/05/18/200434)参照)シロの色が意味する方向は、「白虎、西」です。(4.名前の意味は?(「多崎つくる」・・・②参照)(左記では「方向」はあまり重要ではないと書きましたが、シロとクロの方向に関しては意味があるのかな、と思われます。)このため、東京にいる多崎つくるにとって、故郷は西にあります。

 

距離については、「失われた故郷」は「現在の多崎つくるがいる東京から距離的に日帰りで帰れないことはないが、心理的には遠い」程度の距離を想定していると考えられます。

神奈川・静岡は東京から距離的・心理的に近過ぎます。また、例えば滋賀・京都等でも日帰りで帰れないこともないでしょうが、ちょっと東京からは遠いと作者は考えたと思われます。新幹線から乗り継ぎしないといけない地域も除外です。上記の距離感でちょうどいい距離が名古屋だと考え、作者はつくる達の故郷を名古屋にしたのだと思います。

 

(補記1)シロは後に浜松に行きますが、浜松も東京から見て「西」です。(シロがなぜ浜松に行ったかについては(20.なぜ、シロは浜松へ行った?(「多崎つくる」・・・⑩)参照)

 

(補記2)なぜ、クロは「フィンランド」へ行った?

クロの色の意味する方向は「玄武、北」です。色の意味からいうと、クロの逃げる方向は「北」ですが、逃げたとしてもシロのことを忘れることはできません。日本からみて、フィンランドは「北西」にあります。シロの方向である「西」とクロの方向である「北」の間の「北西」の方向にクロは向かったのだと思われます。(ちょっと苦しい?)

(平成25年5月20日追記)(多崎つくるがクロを訪ねてフィンランドヘルシンキに行った時、クロと家族はヘルシンキから更に「北西」のハメーンリンナに行っていました。)

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