「色彩を持たない多崎つくると、彼の巡礼の年」は推理小説である。(感想・考察・謎解き)  (ネタバレあり)

「色彩を持たない多崎つくると、彼の巡礼の年」(村上春樹)の謎解き。事件の真相・犯人を推理し、特定します。

「色彩を持たない多崎つくると、彼の巡礼の年」は推理小説である。⑦

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*激しくネタバレしています。ご注意願います。

  

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12.クロ①・・・生贄をささげる

 13.クロ②・・・逃避行

14.クロ③・・・赦し

 

12.クロ①・・・生贄をささげる

シロが「悪霊」(11.「悪霊」とは何か?参照)と化したときに、一番身の危険を感じたのはもちろんクロでした。シロにとりついた「悪霊」が一番身近にいたクロを標的にするのは自然なことだったのです。「悪霊」の直撃を受けたら人間的に破滅することすらあります。標的になるのを避けるために、自分の身を守るために、彼女はシロの嘘を信じたふりをして、多崎つくるを生贄にささげます。そして彼をグループから追放させます。これは彼女の大きな罪としてのしかかります。

しかし、これは多崎つくるにとっては結果的に良かったのかもしれません。追放されたことによって、シロの「悪霊」と直接対決しなくて済んだのですから。もし、多崎つくるが真実を教えられたら、シロの「悪霊」とどうしても対峙せずにはいられなかったでしょう。そして、20歳やそこらの甘っちょろい坊やのつくる君は、シロの悪意の直撃を受けて破滅していたでしょう。追放されたのはとばっちり程度のもので、その程度ですら彼は生死の境をさまよったのです。悪意の直撃を受けたら文字通り死にます。彼があえて真実を追求しようとしなかったのも、結果的には賢明な判断だったのです。

 

13.クロ②・・・逃避行

やがて、クロは名古屋から逃げ出します。これは、「悪霊」と化したシロの面倒を見るのに疲れ果てたためと、これだけ面倒を見てあげているにも関わらず、シロの「悪霊」がシロ自身を破壊し損なっていくのをただ見るだけしかないのは非常につらかったためです。シロが崩壊していくのをどうすることもできないということ自体が、クロを激しく損なわせ、やがて自分もシロの「悪霊」に連鎖して崩壊してしまう予感があったのでしょう。クロの告白にはありませんでしたが、いつ「悪霊」の悪意は自分に向けられるかわからないという恐怖もあったかもしれません。逃げ出す先は日本国内では近すぎます。もっと遠くへ「悪霊」が追ってこられないぐらい遠くへ逃げる必要があります。そして、外国人と結婚すると、フィンランドへクロは逃げ出したのです。シロを見捨てて。このことも彼女の大きな罪としてのしかかるのです。

 

14.クロ③・・・赦し

シロが殺されたのを聞いたとき、クロは激しい後悔に苛まれたでしょう。自分が彼女を見捨てて逃げ出したから彼女は殺されたのだと。しかも、これはおそらく事実なのです。こうした罪を背負って生きていくのはつらいことです。しかも、忘れようと思ってもどれだけ遠くに逃げても過去が追いかけてくることがあるのです。

多崎つくるが別荘にいるところを見て、多崎つくるだと理解したときクロは戦慄したでしょう。ついに私の罪を断罪する人間が現れたのだ。自分が「悪霊」に生贄として捧げた人間が、お前の過去の罪を思い出せ、そして断罪されろと。自分の過去の罪を裁くために多崎つくるは、はるばるここまでやって来たのだ、と思ったでしょう。

しかし、幸いなことに多崎つくる君は、彼女を断罪するために来たのではありませんでした。彼は彼女から事実を聞き、それを胸に受け止め、ハグして彼女を赦します。そしてクロは長年の罪から解放されるのです。

 

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