「色彩を持たない多崎つくると、彼の巡礼の年」は推理小説である。 おまけ
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激しくネタバレしています。ご注意願います。
また、以下のおまけを読む前に必ず本ブログの本編をご覧ください。(目次のページをご覧ください。)
以下はおまけです。
ここまで進めてきた推理をもとに、最後につくるが真犯人と直接対決するバージョンの想定Another Endを書いてみました。興味ある人はご覧ください。文体は似せる能力ありませんので、無理に似せていません。ご容赦ください。
1.Another End
そして、水曜日が来た。
多崎つくるは、沙羅が予約したという青山のイタリアンレストランへ向かった。
青山か、とつくるは思った。
レストランのウェイターに個室へ通されたつくるは、そこに沙羅ではなく1人の男がいるのを見た。男はつくるに背を向けていたが、振り返ってこう言った。
「やあ、多崎つくる君だね。待っていたよ。」
男は、この前沙羅と一緒に歩いていた男だった。
「沙羅は?」とつくるは聞いた。
「沙羅はここには来ない。」と男は質問を許さない威圧的な声ではっきりと言った。
「沙羅はここには来ない。」とつくるは乾いた声で繰り返した。
男は握手を求めて右手をつくるに差し出したが、つくるは無視した。
「お久しぶりです。」つくるは言った。
おれの声は震えていないだろうか、とつくるは思った。
「あなたは、白根柚木の父親ですね。」
おや、という顔で男は目を細めた。その仕草が誰かに似ている、とつくるは思った。
しかし、たいして驚いてもいないような声で男は言った。
「随分久しぶりなのによく覚えているね。私はあまり家にいることも少なかったし、ほとんど君達と顔を合わせる機会もなかったのにね。最後に君と顔を合わせたのは何年前になるか・・・。」
「16年です。」とつくるは言った。
16年前の5月、グループが最後に集まったときに、確かに多崎つくるはこの男と会ったのだ。あのときのシロ、いやユズの表情はどうだったのだろう。あの時、おれは気が付くべきだったのだ。なぜ、気が付かなかったのだろう。なぜ、気付いてやることができなかったのだろう。
「それは君が馬鹿だからだよ」とクロに言われたような気がした。
「私は、あなたのことをよく覚えています。」とつくるは言った。正確には思い出した、だが。
「君はあの頃から随分変わったようにみえる。」
「はい、私は」おれは、「変わりました。」
死に近づいたこと、16年の歳月、そして彼の巡礼の年は、彼を根本から組み替えてしまっていた。
多崎つくるは、男の目を見据えてはっきりとこう言った。
「あなたがユズを殺したんですね。」
(End)
2.Another Endの考察
(*「ねじまき鳥クロニクル」への言及が若干あります。)
自分で書いて考察も何もないのですが、このラストは残念ながら「ないな」と思います。つくる君のキャラが全然違います。今まで、探偵失格の鈍感キャラだったつくる君が最後だけ名探偵キャラになって犯人をあててしまうのは非常にご都合主義で、このようなラストは読者の納得を得られないでしょう。探偵失格だった多崎つくるが「名探偵」に成長するには、成長するだけのストーリー(巡礼)が必要になります。そうすると、この物語は非常に長いものになってしまうでしょう。具体的には物語は以下のプロットに変更されると考えられます。(以下を読む前に、「26.二人の結末は?②~クロの忠告を守ったときのシミュレーション(ここ)」をご覧ください。)
(1) クロの忠告を受け、多崎つくるは男の人の話を沙羅にしない。
(2) 数ヵ月後、沙羅が突然失踪する。
(3) 深く絶望した多崎つくるは、再び生死の境をさまよう。
(4) 絶望の中で「沙羅は柚木の姉だったのかもしれない」ということに思い当たる。
(5) 沙羅の行方を捜すため、また柚木の死の真相を探るため、再び多崎つくるは巡礼の旅にでる。(柚木と沙羅に関係ありそうな場所をいくつも巡る旅になると考えられます。)「探偵」多崎つくるの誕生である。
(6) 長い巡礼の末、「探偵」多崎つくるは事件の真相と犯人を突き止める。
(7) 多崎つくるは犯人と対決する。
上記のプロットですが、これって考えてみるとほとんど「ねじまき鳥クロニクル」の焼き直しになってしまうんですね。村上春樹としては昔の作品と似たようなストーリーを長々と書く気が起こらなかっただろうし、「色彩を持たない多崎つくると、彼の巡礼の年」は今ぐらいの長さがちょうどいい、これ以上書くのは蛇足だと思ったのでしょう。
ということでAnother Endの展開は残念ながらなく、想定される最終章は「沙羅による真相の告白」なのでしょう。真相の告白の後、多崎つくると犯人の対決もあるのかもしれませんが、当初想定していた物語の範囲では沙羅による真相の告白で終わる話なのかな、と思います。
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