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「色彩を持たない多崎つくると、彼の巡礼の年」は推理小説である。(感想・考察・謎解き)  (ネタバレあり)

「色彩を持たない多崎つくると、彼の巡礼の年」(村上春樹)の謎解き。事件の真相・犯人を推理し、特定します。

「色彩を持たない多崎つくると、彼の巡礼の年」は推理小説である。⑥

(目次に戻る)(初めてこのブログに来られた方は、まず目次をご覧ください。)

*激しくネタバレしています。ご注意願います。

 

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9.灰田②・・・なぜ彼は去ったのか?

10.灰田③・・・灰(グレイ)の意味は?

11.「悪霊」とは何か?

 

9.灰田②・・・なぜ彼は去ったのか?

 なぜ、灰田は、多崎つくるの元を去ったのか?これは極めて単純で、灰田が多崎つくるに失恋したからです。緑川の話をした夜、彼は実際的な行動に出ます。まず、暗い部屋の隅に立ってじっと見る行為があった後、彼は多崎つくるにフェラチオをして、夢で射精した多崎つくるの精液を口で受け止めます。この行為はもちろん夢ではなく、現実の行為です。彼はそのような行為を行うことによって、多崎つくるが灰田を蔑んで拒絶するか、あるいは彼を受け入れてくれるかに賭けたのです。ところが、彼の回答は、拒絶でもなければ受容でもなく、ただ単に「あれは夢だった(無かったことにしよう)」だったのです。多崎つくるの類まれなる鈍感力が発揮されました。決死の覚悟で賭けた行為をスルーされて灰田は拍子抜けしたでしょう。しかし、それはまた多崎つくるの「現状を維持したい」という回答でもあったのです。これは灰田を悩ませます。告白が失敗した以上、彼はつくるの元を去るべきですが、つくるの現状を維持したいという回答も心が揺れるわけです。彼はつくるが好きな訳ですから。10日悩んでやがて彼は現状維持の選択を受け入れます。

しかし、やはりこの先どこにも行くことができないことが分かっている関係は彼にとってつらかったのでしょう。心の整理を少しずつつけて、やがて彼はつくるの元を去ります。

ここで、重要なのは彼が去る理由は単純明快で分かりきっている話なのに、多崎つくるは現実を直視せず、彼が去った理由をあえて理解しようとしない人間だということです。

 

10.灰田③・・・灰(グレイ)の意味は?

 これはシロとクロの代替という意味です。仮に万が一つくるが彼を受け入れてくれても自分はシロとクロの代替に過ぎないということは彼には分かっていたでしょう。これも彼がつくるの元を去る理由になります。なんで、灰田がシロとクロのことを知っているかって?寝言を彼は聞いていたのです。

 

*(緑川の話と灰田の「オカルト的な解釈」については、余談 その7 この小説の構造は?② 緑川の話、灰田、「オカルト」の扉をご覧ください。)

 

11.「悪霊」とは何か?

「根源的な悪」の人間によって、自らの存在を汚されたときに人間は壊れます。ここに「悪霊」が入り込む訳です。「根源的な悪」の人間に立ち向かう力のない壊された人間は守ってくれなかった周囲の人間を恨み、限りない悪意を周囲の人間にぶつけます。この悪意をぶつけられた人間も傷つき混乱し、時には連鎖的に(精神的に、あるいは物理的に)死んでしまうことすらあります。やがて、壊れた人間に同情する者もいなくなり、友人は去っていき、彼あるいは彼女はひとりぼっちになります。「悪霊」の悪意は自分自身にも向かい、その人間を崩壊させます。

 

(お読みいただきありがとうございます。もし、よろしければ感想などありましたら、コメント欄にコメントしていただけると嬉しいです。)