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「色彩を持たない多崎つくると、彼の巡礼の年」は推理小説である。(感想・考察・謎解き)  (ネタバレあり)

「色彩を持たない多崎つくると、彼の巡礼の年」(村上春樹)の謎解き。事件の真相・犯人を推理し、特定します。

「色彩を持たない多崎つくると、彼の巡礼の年」は推理小説である。④

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激しくネタバレしています。ご注意願います。

 

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7.アカ・・・ミスリードホモセクシュアル

追補.カミングアウトの意味は?(平成2553日掲載)

 

7.アカ・・・ミスリードホモセクシュアル

 アカとは何者か?彼は推理小説上のミスリードを誘う人物です。新興宗教まがいの自己啓発セミナーの主催者など、いかにも村上春樹世界の中では「根源的な悪」を体現しそうな人物ではありませんか?しかし、推理小説のお約束どおり「いかにも犯人っぽい人間」は犯人ではありません。クロの言うとおり彼は「悪いふりをしているだけの」俗悪な人物に過ぎません。彼のやっていることは、悪質な新興宗教ではなく、洗練された(笑)ビジネスでしかないのです。こうした俗物が「根源的な悪」な訳がなく彼は犯人ではありません。

また、彼は「ノルウェイの森」の永沢さんや、「ダンス・ダンス・ダンス」の牧村拓などの系譜に連なる、村上春樹本人の俗物的な(と自分で卑下している)人格を反映した人物かと思われます。考えてみれば、ろくに本の情報も広めてないのにマーケティングだけで100万部も本を売ってしまう村上春樹という人物は、もはや作家というより一種の敏腕経営者と言えるのかもしれない、と村上春樹は自分を卑下しているのかも知れません。

 

もう1つ、重要かもしれない告白をアカはしています。ホモセクシュアルのカミングアウトです。これは、ちょっと読者を混乱させます。カミングアウトするにしても、なぜ、今ここで、なのか?初読のときに私は、これはアカがつくるに対して「昔、おれはおまえのことが好きだったのだ」という過去への告白を示しているのだろうと解釈しました。しかし、再読するとそういう訳でもないような気がします。いずれにしても、アカは高校時代からある種の歪みを抱えていたのだと思われます。あるいはこれ自体が何かのミスリードなのかもしれません。

 

追補.カミングアウトの意味は?(平成2553日掲載)

 上記では、よくわからないとの結論でしたが、改めて考えてみました。

 これには、「推理小説的な解釈」と「推理小説的ではない解釈」があります。

(「良いニュースと悪いニュースがあります。」・・・冗談です。)

 まあ、どちらかがどちらかの解釈を否定するという訳ではありませんので、どちらの解釈でもいいし、両方成り立つのではないかと思いますが。

 

 まず、「推理小説的な解釈」。これは、作者によるアカに対するミスリードを更に広げるための仕掛けです。

作者の仕掛けたミスリードに掛かり「アカ犯人説」を唱えてみたとしましょう。すると、下記の反論が予想されます。「アカは、自分はホモセクシュアルとカミングアウトしているんだから、女性のシロをレイプしたりしない。だから、彼は犯人ではないよ。」

これに対して、アカ犯人派は以下のように再反論することが考えられます。「いや、自分はホモセクシュアルだと自分で言っているだけじゃないか。そもそも、なぜアカは聞かれもしないのに自分はホモセクシュルなどとカミングアウトしたのか?それは、シロをレイプしたのは自分ではないかと疑われた時に、『いや、ホモセクシュアルである自分が、シロをレイプしたりしないよ。』という反論するための予防線を張ったのだ。聞かれもしないのに予防線を張るなんて、ますます怪しい!」

と、上記のように更にアカを疑わせるミスリードの仕掛けとして、このカミングアウトはあるかと思われます。

 

次に「推理小説的ではない解釈」です。これは、「一人で夜の海に放り出されたような孤独感」を感じているのは多崎つくるだけではない、自分もその孤独感を抱いているのだ、というアカによる多崎つくるに対する共感を示した言葉です。これはこれで、この話は読む人の心を打つ(場合もある)ものです。

我々は皆、一人で夜の海に放り出されたような孤独な存在なのです。時々、潮の流れによって互いに近づくことがあっても、やがてまた潮の流れによって離れ離れになっていくのです。みたいな感じのフレーズ、「スプートニクの恋人」にありませんでしたっけ?

それが、「推理小説的な解釈」にかかると、かくも陳腐な解釈(邪推?)になってしまいます。 

 

(お読みいただきありがとうございます。もし、よろしければ感想などありましたら、コメント欄にコメントしていただけると嬉しいです。)